人間が地上で肉体に宿って生活するとき、その生活の出発点は肉体の感覚器官から発生します。
第一に眼です。眼から入ってくる情報は対象を認識するにあたって、かなりの割合を占めると思います。しかし、眼から入ってくるその情報が正確なものかどうか定かではありません。対象を認識するにあたって、眼の機能に依存した見方になると考えられます。同じ対象を観察したとしても見え方はそれぞれ違った見方をしていると思います。その結果、やはり知覚内容が人それぞれ違うのではないかと思います。仮に視覚的に同じような見え方をしたとしても視覚による知覚内容が違うということは同じものを見ているとは言えないと考えます。
次に、耳です。人間の耳はある一定の周波数の幅を、音として確認することができますが、人間が聞き取ることができない周波数の音を聞いている動物もいると思います。音もやはり耳の機能に依存した一定の範囲内でしか聞き取ることができません。
次に鼻ですが、これも同じ人間であっても男性と女性では臭いの感じ方が違うようです。ある種の臭いに対して男性は何も感じることがない場合もありますが、女性には我慢できないということがありますので、鼻に関しても臭いに対する感じ方はいろいろです。
次に舌です。これも舌そのものの機能は人によって、そんなに変わらないと思いますが、辛い食べ物が好きな方もいれば、甘いものが好きな人、嫌いな人、人それぞれです。甘さだけをとっても甘すぎると感じる人がいる一方で、そうでもないと感じる人がいますので、舌の感じ方、感覚も人それぞれです。
次に身です。神経を通して皮膚はいろいろな感覚を持っています。これも皮膚の感覚機能自体は人間であればそれほど大差はないと思いますが、暑がりの人、寒がりの人、肌が敏感な人とそうでない人がいるのでもわかるように、皮膚の感覚も個人によって受け止め方が違うと思います。
最後に意です。この意に関しては宗教の中で語られているような奥深いものでなく、五感から集められた情報を判断している頭脳に当たる働きと考えていいと思います。
以上が「眼・耳・鼻・舌・身・意」に関しての説明です。
六つの感覚器官を六根と言います。
次に六境(六つの対象)とは、先ほどの感覚器官に対応するもの、その感覚の対象となるものです。
眼に対応するものは「色」です。眼を通して色彩などを感じ取ります。
次に「声」です。音や音楽を聞くことで、それに対して快・不快を感じることがあります。
「香」は香りを感じ取ります。
つぎに「味」です。舌で感じとるものは味わいです。
身体で感じとるものは「触」です。いろんな感触を感じ取ります。
次に「意」です。意の部分でと感じるものは、法です。法は、概念や観念といった抽象的な言葉で語られるものです。
このように「眼・耳・鼻・舌・身・意」という感覚器官の対象を「色・声・香・味・触・法」と言います。これを認識の対象領域という意味で六境という。
また、六識(六つの認識)とは、肉体に基づく感覚器官とその対象の間の関係をどのように認識するかということです。
「眼識」は対象を眼で確認して、それが何であるかを判断します。
「耳識」は耳に入ってくる音や音楽を聞きながら、クラシック音楽は素晴らしくて好きだなと感じる、あるいは雑音がうるさいとか感じとります。
これ以外に「鼻識」「舌識」「身識」また心のほうで「意識」が出てきます。
「眼・耳・鼻・舌・身・意」の六つの感覚器官(六根)が「色・声・香・味・触・法」という六つの対象(六境)を感じ取り「眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識」という六つの認識(六識)を生じます。
この18個をあわせて十八界と言います。
感覚器官とその対象の間での関係をどう判断するかという認識が生じます。人間の認識といっても突き詰めて考えると十八界によって世界認識をしていると仏教では教えています。
仏教的世界観には無常観があります。
無常とは、諸現象がつねに変化してやまないこと、生滅を繰り返すことです。時間的持続性がないこと<刹那滅>。を言います。
このようにつねに、変転変化しながら生滅を繰り返す存在に、永遠不滅の本体、固定的実体(我・アートマン)はありません。無我(アナートマン)といわなければなりません。
ここでいう無我とは、自分がという自我の思いを否定する教えという意味ではなく、変化しない持続的、固定的、自からなる性質を有するものは無いという意味の無我です。
ただ、縁によって現象するのみです。あるいは相関的・相対的存在にすぎません。
かくて無常・無我<諸行・諸法>とは縁によって生起したものです。大乗仏典 中村元著 参照
肉体に基づく感覚器官の性質・機能に依存した自己認識、世界認識は真実の世界観を教えてくれません。感覚的なものは無常であって、滅びを内包していますので、それに執着をすると苦しみの原因になると仏教は教えています。
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